フェルガナ・プロジェクトの発足にあたって
2000年1月8日
小松久男


  中央アジアの東部に位置するフェルガナ地方は、現在イスラーム復興運動の進展や民族間の緊張、環境汚染の深刻化などが指摘されている地域である。ここには現代中央アジアのかかえる問題が集約されているともいえる。

  昨年夏のイスラーム武装勢力のクルグズスタン南部への侵入事件は、われわれの記憶にも新しい。この地域の諸問題を理解するには、少なくとも過去1世紀のこの地域の政治的、社会経済的な動態を知ることが必要であろう。そのためには、多様な歴史、経済的な資料と生態、地理的なデータとを最新の地理情報システムによって統合・分析することが有効と考えられる。これはコンピュータ技術を活用した新しい地域研究の手法を開発するという「イスラーム地域研究プロジェクト」の趣旨にもかなっている。

  そこで、研究班1に所属する中央アジア研究ネットワークは、このフェルガナ・プロジェクトムを立ち上げ、この地域の緊張要因を考えるためのデータベースあるいは研究ツールの作成を企画した。

  プロジェクトが順調に進めば、その成果を2001年10月に予定されている「イスラーム地域研究」の国際シンポジウムで発表したい。このようなプロジェクトは、もとより多様な専門の研究者の協力と共同によってはじめて可能となるものであり、とりわけ地理情報システムを専門とする工学系の研究者と人文社会系の研究者との協力が不可欠である。

  より具体的にいえば、地理情報システムを活用して、フェルガナ地方における人口動態、民族分布、経済動向などに関する統計資料を時系列でデータベース化し、これを生態・地理環境の表示された精密な地図上に落としこみ、地域研究に有用なツールを作成する。もちろん、この作業は、今年度のうちに完了するものではなく、その完成にはまだ数年を要するだろう。

       ☆       ☆       ☆

1.想定される歴史、経済、地理的な情報を思いつくままに列挙すれば、

・過去100年間の人口動態
(主要な都市の人口動態も含めて、県・郡別のデータをできるだけそろえる):
参考資料参照

・灌漑水路の開発
(ソビエト時代の建設事業の発展を時系列で追う)

・綿花生産
(主要な農産物である綿花の生産量を地域別、また時系列で追う)

・上の二つに関連して、衛星画像による土地被覆状態を分析することによって、土地利用状況などの経年変化を見ることはできるか

・民族構成・分布の変化をたどれるデータ

2.利用可能な地図

・ソ連参謀本部作成軍用地勢図:20万分の1のシート地図
(デジタル化されたものを利用)

・衛星を使った現代の地形図:ONC 100万分の1

・ソ連時代の1950年代初めに作成されたフェルガナ地方の民族分布地図
1924年にソビエト政権が行った中央アジアにおける民族的境界画定後に出来上がった諸民族
の分布を表示

・帝政ロシア統治期の地図
(古地名の表示)

・その他

3.想定される課題:

・現在3共和国にまたがるフェルガナ地域の動態を総合的につかむには、3国の資料をバランスよくそろえることが必要
(ソビエト期の資料)

・フェルガナ地域における社会経済的な動態を客観的に評価して、その特徴を抽出するにするに
は、中央アジアの他の地域との比較が当然求められるが、それは次の段階で考えたい。

・フィールドワークの実施:ある程度データが蓄積されたところで、フェルガナ地方の現地で調査を
行い、データと実際の状況とを比較・検討する必要がある。

・他の同様なプロジェクトの調査およびそれとの協力
(データの交換を含めて)

戻る