東京大学総合研究博物館小石川分館で2002年12月7日から2003年3月2日に開催された「MICROCOSMOGRAPHIA マーク・ダイオンの『驚異の部屋』」展は、アメリカの現代美術家マーク・ダイオン氏と東京大学のコラボレーションにより実現しました。
小石川植物園に位置する小石川分館は、旧東京医学校本館を本郷から移築した建造物で、国の重要文化財に指定されています。この歴史的建造物の中に、マーク・ダイオン氏は、東京大学の学術標本と廃棄物から成る8つの小博物館(水圏、地上圏、地下圏、気圏、人間圏、理性と規矩、大きいもの、小さいもの)を創造しました。そこに並べられたのは、120年の歴史を持つ東京大学の研究現場で使われてきた貴重な標本類だけでなく、明治時代から教室で使われていた調度類、捨てられていた風力発電の模型、トランクに収まった測定機器類、フラスコが連なった実験装置、錆びついた船の模型、大きな瞳が1つ描かれたランプなど、ダイオン氏が新たな意味を与えた多種多様なモノ。通常の標本展示と異なり、展示物を説明するラベルは一切なく、来館者に自由な視点で展示と向き合うことを促し、一つ一つの展示物や各部屋の空気を各自の思いのままに感じ取る時間を提供できたようでした。
文化資源学研究室の学生は、西野嘉章教授「博物館工学ゼミ」(2002年度開講)の実践の一貫として、このコラボレーションにおいて様々な役割を担いました。
![]() 東京大学総合研究博物館 小石川分館(上野則宏氏撮影) |
![]() 展示室(上野則宏氏撮影) |
ダイオン氏から展示の趣旨説明を受けて議論した学生達は、21世紀の「驚異の部屋」誕生に向けて、ポラロイドカメラで学内の展示物候補を探索することを提案。すぐに用意された十数台のカメラ片手に、約一ヶ月かけて学内の研究室や収蔵庫だけでなく廃棄物置き場も巡り、展示物候補を撮影しました。撮影場所とサイズ、撮影者コメントを加えた1,000件近いドキュメントを、ダイオン氏に提示しました。
![]() 美術資料室を探索 |
![]() 古い生薬の袋も点検 |
![]() 学生が撮影した写真の山(上野則宏氏撮影) |
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ダイオン氏は自身で探索した展示物に加え、学生が撮影した写真の中から多数の展示物を選定しました。学生は彼に探索中のエピソードを伝え、具体的な展示プランについて自由に意見を述べました。例えば学生からの提案で、会場で流す音を学内外からサンプリングすることになり、キャンパスの内外からいくつかの部屋に合った音を集めました。
学内各所から展示物を借り入れたり、集める作業も学生が担当。注意すべきは、収蔵庫や研究室から拝借する標本はもちろん、廃棄物置き場にあるモノも全て、決して埃を払わずに集めること。使用されなくなったモノ、忘れ去られたモノが辿った時間をそのまま展覧会に持ち込むことが今回の重要な視点でした。
そして分館での展示作業。学生は、ダイオン氏の仕事を見守り、時には指示を受けて壁に恐竜の絵をペイントしたり、数十枚の写真を貼ったり、壁紙に数式や文字を書き込むなどの作業を手伝いながら、展覧会が創り上げられていく空気を存分に味わいました。
(展示準備作業の詳細は、「東京大学総合研究博物館ニュース」に掲載された学生のエッセイをお読みください。)
![]() テーマに関連した数式や文字を展示室壁面に書き込む |
会期中、学生は博物館ボランティアと共に展示解説を担当しました。
今回の展示は、一般的な標本展示とは異なる、実験性の高いもので、個々の展示物を説明するラベルはありませんでした。ダイオン氏の意図やコラボレーションのいきさつ、展示物の由来、そしてコラボレーションを通して感じたことを、学生は展示室で来館者に伝えました。展示解説は学生から来館者へという一方向のものではなく、来館者から意見や感想を伺い、来館者とコミュニケーションする貴重な機会となりました。
ラベルがないことで自由にじっくりモノを見る楽しさを知ったという意見もあれば、少しは解説があった方がよい、最後に種明かしシートを配ってほしいという意見など、様々な意見が聞かれました。驚異の部屋となるにはもっと圧倒的な量、混沌とした空気が必要だとする意見もありました。小石川分館の建物の美しさに感嘆する意見、重要文化財である建物と現代美術の組み合わせが面白いとする意見も多数寄せられました。また、実際に手回し計算機を使っていたという60代・70代の方々や、数十年前の剥製の作り方を教えてくださった方など、モノが活用されていた当時の様子を語る来館者もいらっしゃいました。
しかし、展示室での対話は限られたものです。そこで学生は、来館者にアンケートとインタビューを続けました。これらアンケートとインタビューの結果と展示解説日誌を毎日点検し、後の展示解説に生かしたり、ダイオン氏のこれまでの図録や今回の展覧会評を提示するコーナーを設けるなど、いくつかの課題に会期中に対応することができました。
2001年度に総合研究博物館で開催された「真贋のはざま」展と同様、今回も学生有志らが展示評価に取り組みました。小石川分館の初めての企画展、海外の現代美術家とのコラボレーションを、来館者はどのように受け止めたのか、来館者の属性、メディア報道と来館者動向の関連などについて、2,100件のアンケート票、インタビュー票、展示解説日誌、関連報道などを点検して、報告書をまとめました。この展覧会への参加を通しての感想を綴ったエッセイも掲載されています。
![]() 図録と展示評価報告書 |