負のプライミング (Negative Priming)

視覚系には外界から様々な情報が入力されてきますが,私たちはそのすべてを見ているわけではありません。行動の目的に合わせて,不要な情報は無視し,必要な情報に対してのみ注意 (attention) を向けています。注意を研究している認知心理学者のあいだでは,無視された情報がどのように処理されているのかという問題に一つの関心が集まっています。ここに紹介する“負のプライミング (negative priming)”は,この問題を考えるうえで重要な手がかりを与えてくれる証拠として,多数の研究者によって調べられてきた現象です。

負のプライミングの図1 このデータベースでは,代表的な Tipper (1985) の研究を取り上げ,その刺激をパーソナル・コンピュータの画面上で擬似的に再現することを試みました。Tipper (1985) の実験では,右の図のように,赤色・緑色の二つの物体を重ね合わせた刺激画面が,継時的に提示されます(先行の画面を“プライム”,後続の画面を“プローブ”と呼びます)。被験者の課題は,それぞれの画面について,緑色で描かれた物体は無視し,赤色の物体のみに注意を向け,その名前を判断することです。

右の図では,被験者はプライムで赤色の“椅子”に注意を向け,緑色の“イヌ”は無視しなければなりません。さらに,プローブでは,こんどは“イヌ”に注意し,“足”は無視することになります。このように,プライムで無視した物体についてプローブでその名前を判断するという実験を行うと,無視したことの影響を示す一定のパターンが結果にあらわれます。具体的には,プローブでの判断にかかる時間が,プライムで画面に出てこなかった物体の名前を判断する場合に比べて,数10ミリ秒間遅くなる傾向がみられます。つまり,たとえ無視された刺激であっても認知は行われていて,無視した直後に注意を向けようとした場合に,反応を遅らせる効果があるのです。これが負のプライミングと呼ばれる現象です。


実験手続き・実験データの分析について

実験画面は,継時的に提示されるプライム・プローブの二つの画面からなっています。どちらの画面も,ごく短い時間だけ提示され,マスク刺激で隠されてしまいます。被験者の課題は,緑色の物体は無視して,赤色の物体の名前を判断することです。プライムについては,名前を判断して,それを覚えておくだけで結構です。プローブについては,名前を判断したら,それが何であるかをキーボードのキーを押して答えてください。画面に出てくる物体は4種類で,イヌならば“D”,椅子ならば“C”,足ならば“M”,ギターならば“K”の各キーを押して,できる限り早く,かつ正確に回答してください。

負のプライミングの図2 実験は72試行からなります。実験終了後はブラウザのJavaコンソールを表示して,データを取り込んでください(使用マニュアル参照)。反応時間を調べると,プライムで無視した物体をプローブで判断する場合(無視反復条件)のほうが,プライムで提示されなかった物体を判断する場合(統制条件)よりも長くなる傾向がみられるはずです。ちなみに,プライムで注意を向けた物体をプローブでも判断する場合(注意反復条件)は,反応時間が短くてすむことも分かるはずです。


参考文献
川口 潤(1995) 注意  高野陽太郎編 認知心理学2 記憶 (pp. 49-69).東京大学出版会.

Tipper, S. P. (1985). The negative priming effect: Inhibitory priming by ignored objects. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 37A, 571-590.

横澤 一彦(1995) 視覚的注意  乾敏郎編 認知心理学1 知覚と運動 (pp. 169-192).東京大学出版会.

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