ご挨拶
会長挨拶
このたび会長を仰せつかりました岸本です。歴代会長の方々のお顔を思い浮かべますと、私などは馬齢を重ねましたものの学識・貫禄ともに不十分で気おくれしておりますが、中国社会文化学会にはその当初から大変お世話になっておりますので、お引き受けすることにいたしました。
『中国――社会と文化』が創刊されたのは1986年で、私はその創刊号に論文を掲載していただいております。その創刊号の発行者は東大中国学会となっておりますが、これはそれまでの東大中哲文学会を基礎としつつ、歴史学、法学・経済学など社会科学、そのほか中国研究の全分野、さらに日本・朝鮮も含めて総合的な学会を作ろうという壮図のもとに発足したものでした。東大中国学会はさらに1993年、東大を超えた全国的な学会として、中国社会文化学会と名称を変え、現在に至っています。
思い返しますと、1980年代という時代は、改革開放の波とともに、中国が瞠目すべき変化を見せていた時代でした。現在のようにアメリカとはりあうような超大国になると予想していた人はあまりいなかったと思いますが、様々な方向に向かうエネルギーがぶつかりあっていた時代で、日本の学界からみても、現代と歴史・文化とがいりまじった中国への関心が盛り上がった時期だったと言えます。
時を同じくして中国研究の学際的な形での刷新も目指されたのであり、その一つが東大の中国哲学研究室、現在の中国思想文化学研究室を震源地とする中国社会文化学会の成立に向けての動きでありました。当時その渦中にあって、大学院生として学会の草創期を直接経験された方々ももうすぐご定年のお歳となられ、現在は、学会運営の中心がもう少し若い世代に移っていく時期かと思います。時代の流れにつれて中国研究の在り方も変わってゆくのは当然ですが、草創期の状況にねざす特色、すなわち分野を超えた内発的な問題関心は今後とも受け継がれていくことを期待し、微力ながらお手伝いをしたいと思っております。
中国社会文化学会は、規模の大きな学会ではありませんが、それだけに気血がめぐりやすいというか、独特の生命力をもった活動をめざすことができると思います。どうぞよろしくご支援をお願い申し上げます。
岸本 美緒
理事長挨拶
このたび理事長の大任を仰せつかりました。就任にあたり、ひとこと御挨拶を申し述べたいと存じます。
学会には様々な存在意義がありますが、学問を志す人々がつどい交流する場としての意義がその根幹にあると考えております。自分一人で研究しているだけでは視野に入らない論点の所在に気づくこともその一つです。また、学問を続けて行く際に直面する様々な困難や障碍について、意識を高め合うことも大切です。
この最後の点について述べますと、現在の日本の大学などの研究機関の状況には、実に憂慮すべき点が多くあります。多くの困難を生み出している要因の一つとしては、国家財政難や少子化の結果としての大学経営の不安定化という問題があります。
しかし、学問が直面する困難のなかで私が最も深刻だと考えるのは、「どのような出鱈目な話でも言ったもの勝ち」という気風が、国の内外を問わずに蔓延しつつあるという事態です。これは真理の探究をめざす学問にとって最も有害なものとも思われますが、とりわけ社会の基盤となるはずの人々の相互信頼を急速にむしばんでいく危険性があるので看過できません。その意味で、真摯な学問研究のもつ社会的な意義は極めて大きくなっていくものと、私は考えています。
私の愛読文献の一つとして、『史記』太史公自序があります。よく知られているように、司馬遷は、古来、多くの学者が困難の中で奮闘しながら自らの学問を打ち立てたことを述べています。むろん司馬遷自身をその系譜の中においた話なのだと思います。このことを現代に引き付けて考えますと、我々が目下直面している事態もまた学問における試練だとも思われます。ただ、我々は司馬遷とは異なり、この学会のような仲間があり、協力しながら試練に立ち向かうことができます。
これからも、本学会への御支持のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
2025年7月
吉澤誠一郎