ご挨拶



会長挨拶




     このたび思いがけず会長に就任することになり、一言ご挨拶申し上げます。

     本学会と深く関わりそうな昨今の状況をみますと、課題、問題が山積しています。

     一つに、情報通信技術やAIなどの科学技術の大躍進、これが知のありかたそのものをどのように変えていくのか、未知の課題に
    面しています。たとえばご存じのように中国ではもうスマートフォンなしに生活できなくなりつつあり(ネットで一頃、ベッドに横たわる
    二人、アヘンを吸う「百年前」、スマホに釘付けの「今の」若者という図が出回りました)、この三年ほどの大変化には驚嘆するばかり
    です。中国の文献資料の大量デジタル化もこのところ急速に進み、ありがたい一方で、読解スピードがそれに追いつくのは難しい。
    それどころかたとえば漢字を実際に書くという身体的あるいは準身体的行為がいつまで可能か、可能でなくなったときに漢字は生き
    延びるのか、加速するデジタル化とどこまで共存できるのか。そしてそれらをツールとする知のかまえ、身体感覚器官の能力そのもの
    までがどう変わるのか、というような人類の今後に関わる問題です。

     二つに今に始まるわけではないですが、ことに人文系の学問、その制度の存続危機の問題です。日本の国立大での文系無用論は
    中短期的成果主義にたつ行政サイドで根強く、国立大では大胆な文系の周縁化が進行中です。中国を中心とするアジアからの留学
    生の増加は心強い一方で、日本人の文系研究志望者は減る一方、ことに中国学ではそれが著しいようです。研究全体にとって多角
    的な視点を担保するには日本の日本人研究者の継続養成も必要、というほかない状況にたち至ってきました。このように懸念される
    研究の先細り現象に拍車をかけるかのように、国税を使う研究は「国益」にかなうべしとの声があがり、日本の戦時暴力にかかわる
    研究を忌避する風潮すらでてきており、当然、アジア研究は排除の対象となりかねません。深刻な問題といえます。

     さらこの学会については今期の当選理事のすべてが男性教員、しかもほとんどが東京大学教員が占めており、多様性、ジェンダー・
    バランスなどからいっても望ましくないことはいうまでもありません。学会運営や大会プログラムもそういう観点からの配慮が必要にな
    るのではないでしょうか。

     以上のような問題・課題について学会ができることは限られていると思いますが、理事長・理事はじめ会員のみなさまとともに向き合
    っていくべく、微力ながら私もできるだけ努力いたしたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

                                                                   坂元 ひろ子

 

                                               

理事長挨拶




      このたび中国社会文化学会の理事長を仰せつかりました中島隆博です。就任にあたりまして一言ご挨拶を申し上げます。

      この学会が誕生した1993年を思い起こしますと、世界的には冷戦体制が崩れながらも、東アジアにはいまだ冷戦構造が色濃く残
     っているという時代でした。当時、中国哲学研究室の助手としてこの学会に関わっていた者としましては、変容する世界において中国
     が新たなそして大きなプレゼンスを示していくようになるプロセスと、この学会が東大の中の学会から全国学会へ、そして哲学と文学か
     らより学際的なディシプリンへと変貌していくプロセスを、重ね合わせるように見ておりました。

      それからあっという間に四半世紀が過ぎました。その間、中国の社会と文化が驚くほどの速さと規模で変化していったことはいうまで
     もありません。では、それを研究するわたしたちの側は、どこまでその変化についていくことができたのでしょうか。おそらく十分について
     いくことができていると断言することは、なかなか難しいのではないでしょうか。

      これには多くの理由があると思いますが、その重要な一つとして、「中国とは何か」が実にわかりにくくなったことがあるかと思います。
     それは、中国を研究するわたしたちにとってわかりにくいというだけでなく、中国社会に生きる人たちにとってもわかりにくくなったという
     ことです。世界経済に深く組み込まれ、高度にIT化されていく中国社会において「中国とは何か」を問うことは、冷戦以前において「中国
     とはなにか」を問うこととはずいぶん違っています。

      こうした状況のもと、いま一度、中国研究の方法論やプラットフォームの作り方をみなさまと一緒に考えていくことができればと思いま
     す。
それは、この学会を立ち上げた先人たちの願いでもあったように思います。今では、文化本質主義的な中国を持ち出すこともできま
     せんし、極端な相対主義が示す何でもありの中国に開き直ることもできません。諸概念の世界的循環と相互変形の中で、中国の普遍に
     向かう側面と特殊に向かう側面を同時に問う必要があります。しかもそれは、国際的に開かれたプラットフォームにおける批判的な討議
     においてはじめて可能になるものでもあります。

      まことに非力な理事長ではありますが、会員のみなさまがたとともに、中国の新しい問い方を模索してみたいと思います。是非、具体的
     なご提案を事務局までお寄せください。会長、理事各位、評議員各位とともに、貴重なご提案を踏まえた上で、学会の運営にあたりたいと
     思います。“Associate or Perish”と言われますが、学会というAssociationの意義がいままさに問われているのだと思います。

                                                                      中島 隆博